神戸大学では、10月28日に「海神プロジェクト」新船建造記者発表会を開催しました。
新船建造の背景と船名
神戸大学長 武田 廣
新型コロナウィルス感染症の広がりによって、私たちは、この地球を生命をも含めてシームレスに、いわばone globeとして捉え、考え、そして行動することの重要性を再認識しました。神戸大学では、地球表面の70%を覆う「海」が人類にとって1つの海、one oceanであり、この海を通してone globeのあり方を考えていこうとしてます。この基本理念のもと、「海の神戸大学」が教育?研究を展開し、四方を海に囲まれて暮らす人たちの「海への興味」を増幅し、「海洋立国日本」の将来をみなさんと一緒に考えていくことを担う全学的な取り組みが「海神プロジェクト」です。
海神プロジェクトには3つの柱があります。1つは、海洋政策科学部の設置、2つ目は、神戸大学における研究の顔となる「海共生(ともいき)研究アライアンス」の設置、3つ目が、「海洋教育研究基盤センター」の設置です。これらの3つ柱の下で、学内外の教育?研究機関、そして社会と連携して、one globeの実現を目指して「海の神戸大学」の活動を広げてゆきます。
今回はその柱の一つである新船の建造について発表することとなりました。
「海の神戸大学」にとって、新船の建造は長年の悲願でした。現在の練習船「深江丸」は、1987年の竣工以来、我が国の海運を担う多くの人材を輩出してきましたが、船齢が32年を超えて、安全で高度な人材育成や海域探査には不具合が生じかねない状況でした。そんな折に「新船」の建造経費が認められ、関係各位のご協力のもと設計などの検討を進めてまいりました。
新船の建造にあたっては、3つの機能の充実に加えて、「海の神戸大学」の顔として、学内外や一般社会の多くの人たちに「海」への期待、そして夢を広げていただくことが重要であると考えています。これらの点を考慮して、新船のコンセプトデザインの制作を、世界的な工業デザイナーである奥山清行氏にお願いしました。
新しい船名は「海神丸」です。「海の神戸大学」を象徴する名称として、今後の神戸大学のone ocean, one globeを目指す決意を表しています。
船名の決定にあっては、神戸大学が海洋立国日本を牽引して、新しい国際秩序を確立していこうとする取り組みにおいて大きな役割を果たすことへの期待を込めて採用しました。
今後も建造の途中経過をお伝えするなど、様々な活動を、「海神プロジェクト」を通じて行なってゆく予定です。これからも引き続き「海の神戸大学」の活動にご注目ください。
新船建造プロジェクト
新船建造検討委員会委員長 勝井 辰博
新船建造プロジェクトでは、現在の深江丸の老朽化、また海洋立国をけん引する人材の育成や社会的要請の変化に対応する「海の神戸大学」を目指すことを課題解決に向け、多機能練習船の建造を基本方針として検討してまいりました。
新船は、「多機能練習船」として3つの機能を充実させます。
1つ目は、人材育成に不可欠な練習船機能の充実です。この船舶は、神戸大学生はもとより、文部科学省に認定された教育関係共同利用拠点として、全国の大学の学生を対象に、実習?演習?実験などを提供します。新船においてはこれらの機能を充実させるために、多人数が使用可能な実習?演習用スペースおよび講義室などを確保し、さらに、学生居室の少人数化および多室化、男女共同利用への配慮などの船内住環境の改善を図ります。
2つ目は、海洋立国を牽引する人材の育成と先端研究を推進する「海の神戸大学」の顔として、多角的な海域探査や観測に必要な最先端の機能の充実です。
3つ目の大きな特徴が、社会貢献機能の充実です。例えば巨大災害発生時に、被災地に対して水や電力の供給、支援物資の輸送などの災害支援機能を付加することです。さらにこの新船を用いて、多くの方々の海への興味を増幅するためのアウトリーチ活動を積極的に展開して行きたいと考えています。
新造船海域探査プロジェクト
海共生研究アライアンス長 巽 好幸
「海の神戸大学」の新しい顔となる「海神丸」。深江丸より2回り程度大きくなり (450→830トン)、航海?探査能力も大幅にアップします。現在進行中の鬼界カルデラや瀬戸内海に加えて、今後様々な面で海洋立国日本の生命線である南西諸島全域で新しい探査を展開していきたいと考えています。
新造船の運用
海洋教育研究基盤センター長 藤本 岳洋
新造船の運用については、これまで海事科学研究科附属であった練習船などを「海の神戸大学」として全学組織として運用します。また、効果的かつ安定した運用による教育?研究?社会活動を推進します。
海洋教育研究基盤センターについては、海の神戸大学の基幹組織として運航経費、人員の確保を含めた深江丸の安定的かつ効率的な運用や神大海技士の育成、他大学との連携による先端的海域研究の推進を行っていきます。
新造船のコンセプトデザイン
KEN OKUYAMA DESIGN 代表 奥山 清行
私は、これまでフェラーリなどの自動車、至高の寝台列車「トレインスイート四季島(しきしま)」、上質なバスの旅を担う「クリスタルクルーザー「菫(すみれ)」、未来の農業を拓く「トラクター」などのデザイン、また大阪メトロの総合デザインなどのデザインに関わってきました。
また私は現在の神戸大学海事科学部の前身である「神戸商船大学」へ入学して世界の海を駆け巡ることが夢でした。そのような折、神戸大学から新船のデザインの依頼があり、これまで抱いていた夢を少しでも形にできればと考え、快く引き受けた次第であります。なお、船体は海のトリトンの白いイルカからインスピレーションを得てデザインしました。このデザインの新船を用いて、神戸大学が有為な海洋人材を育成し、海の最先端研究を推進し、そして社会とともに海を拓いてゆくことができることを大変期待しております。