学部を卒業される皆さん、大学院前期課程および専門職学位課程を修了される皆さん、卒業並びに修了おめでとうございます。ご列席のご家族の皆様、誠におめでとうございます。神戸大学の全構成員を代表しまして心からお祝い申し上げます。

本日は学部の卒業生2,593名、大学院博士前期課程修了者1,190名並びに法学研究科及び経営学研究科の専門職学位課程修了者63名の合わせて3,846名の方々に学士および修士の学位を授与しました。このように多くの卒業生、課程修了者を社会に送り出せることは学長として大変誇りに思っております。

さて、皆さんはこれから様々な世界に飛び立とうとされており、高鳴る思いを胸に秘め夢と希望に満ちておられることと存じます。今日は、皆さんに、グローバル社会において活躍できる人材の必要性と、人と人および組織と組織の連携の重要性についてお話ししたいと思います。


 

ご存じの通り、今我々の住んでいる世界は、様々な地球規模の複雑な課題に直面しています。地球温暖化などによる環境問題はもとより、資源、エネルギー、食糧などの確保に対する国際的な競争が激化し、世界経済や政治を不安定にさせています。このような複雑で激変する世界を取り巻いている問題の多くは、一国だけで解決することはできず、世界各国が協調、協力して取り組まなければならないグローバルな課題となっています。また、産業界では、グローバル化の進展によって経済環境の著しい変化や厳しさを増すなかで、優れた人材の国際的な獲得競争が熾烈となっています。人類社会が直面するこのような課題を解決に導き、イノベーションによって社会に新たな価値を創造する。そのような人材がグローバル社会の柱となります。グローバル社会では、語学力?コミュニケーション能力、主体性?積極性、責任感や使命感だけでなく、異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティーを兼ね備えた資質が求められます。この資質に加えて、深い教養と高度な専門性を持ち「課題発見型リーダーシップ」を発揮できる人材がこれからのグローバル人材であると考えております。

 

大学は、教育と研究を通じて、グローバル社会における学生の未来と社会の未来を創り出す極めて重要な責務を担っており、本学は、大学教育の質的変換のために数多くの施策を行ってまいりました。

グローバル教育を充実させるためには大学教員の質的向上が必要です。そのためには個々の教員のグローバル化を進めなければなりません。神戸大学は平成21年度から45歳以下の若手教員を毎年15名から20名、約1年間海外に留学させています。留学することで、研究能力が向上するだけでなく、現地での慣習に触れることなどを通じて異文化理解が深まり、人的ネットワークも形成できます。これによって教員が、学生達に学ぶ意欲や広い世界に出てゆこうとする意欲を強くサポートできるグローバル教育に転換できます。

グローバル人材育成のためのプログラムも同時に充実させなければなりません。本学では、文系?理系のほとんどの学部や大学院研究科で独自に、あるいは連携によるプログラムを開設し積極的に取り組んでいます。

また、海外の大学や研究機関とは連携を強化し、学術交流や教員?学生の派遣などを通じて教育研究分野におけるグローバル化も図っており、その一例としてオックスフォード大学からの留学生12名を毎年受け入れるプログラムも展開しています。

一方、海外とのネットワークの構築も国際化戦略の一環として積極的に推進しており、EU (欧州連合) 地域の拠点としてベルギーのブリュッセルに、また東アジアやASEAN地域の拠点として中国の北京にそれぞれ海外事務所を開設しています。さらに、米州での拠点設置についても計画を推進しております。

 

しかしながら、今後の世界の急速な変化に対応するために、今まで実施してきた本学の取り組みに留まらず、さらに全学一体となってグローバル化のための教育や研究を一層強化するための組織改革を含め積極的に取り組んでゆく計画です。

 

もう少し連携についてお話をします。私は大学で教育研究を行う以前に民間企業で24年間、研究開発に携わりました。その間、1つの研究成果がそのまま製品開発に結びつくというケースは非常に少ないことを数多く学びました。製品化するには他の様々な技術を組み合わせる必要があり、ポイントになるのがネットワーク力なのです。従来、企業と大学との連携は大学と企業が1対1で結んでいたものが大半でした。ただこれではスピードをもって製品化することは難しく、そこで複数の企業に参加してもらって大学が仲立ちをする「産産学連携」という新たな連携システムを本学で導入しました。2008年にスタートした「バイオプロダクション次世代農工連携拠点」は、その一例です。プラスチック、繊維、医薬品などの多様な製品を生み出す大きな研究プロジェクトで、14社が参加しています。企業としてはお互いの手の内を見せたくないのが本音ですが、製品化をスピードアップするにはやむを得ない、お互いの情報交換が必要ということを納得してもらって強固な連携を構築しました。

これまでの日本社会は企業も大学もお互いに閉ざされた「閉鎖的社会」だったかもしれません。これからは幅広いネットワークを構成して「産産学連携」もしくは「産学学連携」を展開していく。そこに日本の未来があります。

大学間でも同じことです。昨年末、神戸大学と京都大学、大阪大学は相互協力協定を結びました。地理的にも近い関西の三大学がお互い補完し合うようなことからまずは協力を進めていく。世界の大学と競い合って行くのに、お互い協力し合わなくてはいけません。

また、学内における最近の組織間連携の成果は神戸大学が昨年、「研究大学強化促進事業」に選定されたことです。神戸大学は「文理総合研究大学」というコンセプトで申請を行いました。

神戸大学の研究力を考えたとき、文系と理系の分野間のバランスの良さがあり、分野横断型の教育研究の推進を図る基本的な枠組みが構築されています。

歴史的には伝統と強みのある社会科学系分野に、戦後加わった人文?人間科学系、自然科学系、生命?医学系の四大学術系列における幅広い研究を連携?統合することで世界と競える研究を進めること、それが文理融合型総合研究大学の狙いで、本学の統合性が特徴のある研究大学として威力を発揮できるものと考えております。

 

さて、今まで連携の重要性をお話してきましたが、言うまでもなく個人および組織の基盤的な高い力量によって初めて連携の効果が発揮できます。

皆さんは、本学で先程述べました素晴らしい環境の下で学業を修められてこられましたので、基礎的な力は十分に備わっていると思います。今後は、皆さんが更に高いレベルでの実力を身に着けられて、様々な分野で多くの課題を解決に導き、未来を支えるグローバルな人材として活躍されることを祈念して、平成25年度の学位授与式の式辞といたします。

 

平成26年3月25日
神戸大学長 福田 秀樹