神戸大学大学院経営学研究科と株式会社日本M&Aセンターホールディングス(以下、「日本M&AセンターHD」という。)は、相互に連携し、本研究科の教育研究の一層の充実と大学院の学生の資質の向上を図り、相互の研究交流を促進し、もって、わが国の学術及び科学技術の発展に寄与するため、2023年3月に連携大学院に関する協定を締結し、2023年4月1日から本研究科に連携講座「M&A戦略設計講座」を設置しました。

1.趣旨?目的
(1)連携の趣旨と目的

本連携講座「M&A戦略設計講座」は、研究者養成のための博士課程前期課程及び後期課程(PhDプログラム)の一環として、企業の存続と発展にむけた持続可能な社会の実現に寄与すること、専門職学位課程(MBAプログラム)の一環として、現実のケース事例を教材とした実践的経営教育を行うことを目的としています。M&Aを軸に事業の集約化とイノベーションを創出し、日本企業の生産性向上を牽引するため、M&A事業者だけでなく、企業の経営者、経営幹部、企業のM&A担当者並びにその支援を行う金融機関担当者及び弁護士?公認会計士?税理士等の専門職が、M&Aに対する正しい見識に基づいたスキルを身に着け社会活動することで、M&Aに対する社会的認知が広がることを目指します。

経営学研究科では、2022年9月に日本M&AセンターHDとの間で、中小企業のM&Aの研究?教育に関する包括連携協定を締結しています。また、それに先立ち同年4月には、中小M&A研究教育センターを設置しました。この包括連携協定を具体的に展開するために、日本M&AセンターHDとの間で連携大学院に関する協定を締結しました。


(2)連携の必要性

2015年に、国連が「持続可能な開発のための2030アジェンダ」として持続可能な社会を実現するための開発目標SDGsを掲げて以降、国連加盟各国でその実現に向けたアクションがとられていますが、開発目標の足元で日本の企業は後継者不在による廃業の危機、人口減少による生産力の減少という危機に直面しています。

日本企業数の99%強を占め、日本経済を支える中小企業ですが、経営者の高齢化や人手不足が慢性化し、2025年までに約60万社が黒字廃業の可能性があると示唆されています。中には高い技術力や伝統技術を誇る企業など、地域産業にとって貴重な存在もあり、国も中小企業の事業継承を政策の重要課題に挙げています。M&Aはこうした技術や事業を継承する有力な方法で、近年増加傾向にあるものの、研究対象としてはあまり注目されてきませんでした。

事業承継は親から子へ、経営者から従業員へ承継されることが多かったのですが、近年では第三者へ継承することが主流になりつつあります。後継者不在は社会的に問題視され、官主導の事業承継に向けたガイドライン策定などの取組みや、官民一体の取組みも進み始めており、M&Aに対して産業界及び学界の双方で関心が高まっています。

以上より、日本企業の生産性向上にむけたM&Aによる事業の集約化と、イノベーションの促進にむけた基礎研究、新たな学術分野の開拓は急務であると考えています。

日本M&AセンターHDは、中小企業の企業価値評価やM&A後の経営統合(PMI)支援、事業成長のための日本投資ファンドや、経営候補者に替わってファンドがM&Aを実施し経営を委任するサーチファンド?ジャパン等に代表される投資企業など、M&Aに関連する事業を総合的に展開しています。

本講座は、多くの中小企業のM&Aを仲介し、M&Aで事業承継や事業成長した企業やその経営者と、密接なネットワークを有する日本M&AセンターHDと連携することで、社会人MBAプログラムの一環として、現実のケース事例を教材とした実践的M&A教育の推進に貢献できると考えています。また、事業承継だけでなく、事業成長の観点に立った事業創造や起業を目的とするM&A戦略の設計を研究するPhDプログラムの学生にとっても、通常では得難い事例資料に基づいた実践的研究の機会が提供されると期待できます。こうして、中小企業のM&Aに関する研究?教育を加速化させることで、日本企業の生産性向上にむけたM&Aによる事業の集約化とイノベーションを促進し、企業の存続と発展にむけた持続可能な社会の実現に寄与していきます。

2.連携講座の内容

創業以来、「企業の存続と発展に貢献する」を企業理念に掲げる日本M&AセンターHDは、中小企業のM&Aにおける標準(デファクトスタンダード)を確立してきたフロンティアであり、事業承継をはじめ中小企業への政策を推進する経済産業省?中小企業庁と官民連携を推進する中核的役割を果たしているものの、日本の中小企業の後継者不在による廃業問題の解決は、日本全体でも大きな社会的問題として認知されつつあります。

本講座は、中小企業のM&Aを数多く手がけ、中小企業のほか中小企業を支援する公認会計士?税理士事務所や大手金融機関、地域金融機関ともネットワークを有する日本M&AセンターHDと本研究科が連携することで、永続的な企業の存続と発展、持続可能な社会の実現に寄与します。

M&Aを軸に事業の集約化とイノベーションを創出し、日本企業の生産性向上を牽引する研究と教育を充実させるために、教育研究活動においては以下を目指します。


  • 企業の合併や買収による経営戦略の達成や転換の可能性の網羅的検討、およびM&Aの対象となる相手企業の企業価値評価の方法について考察する。
  • 現代の最新実例を用いて、M&Aを軸とした中小企業を取り巻くファイナンスを考察しながら企業の事業成長マネジメント戦略について考察する。
  • M&Aを類型に切り分けして様々な視座から深掘りし、実務で直面する法的(制度 的)、会計的、人的課題へ考察を掘り下げてM&A戦略を体系立てて理解し、システム設計ができる。

本講座を通じて専門職学位論文の研究成果が実務的に有意義であると同時に、学術的な貢献や社会課題の解決に貢献するものとなることを目指すことは、M&A戦略を断片的に考案するのではなく、企業の発展段階や景気循環ならびに事業ライフサイクル等を総合的に配慮して、M&A戦略を仕組みとして設計する思考につながり、今後の有望な研究分野として発展が期待できます。

3.連携講座の組織
専攻名:経営学専攻、現代経営学専攻
講座名:M&A戦略設計講座
客員教員:株式会社日本M&Aセンターホールディングス 代表取締役社長 三宅卓
(非常勤講師として受入れ、客員教授の称号を付与する。)
4.教育課程の特色

PhDプログラムは、経営学研究のコアとなる理論を取り扱う「特論」科目、研究メソドロジーを解説する「方法論」科目、各分野の最先端の研究テーマを内容とする「特殊研究」科目のほか、学位論文の作成指導のための「研究指導」から構成されます。経営学という学問分野の性質上、産業界で生起する重要問題のタイムリーな把握は論題選択の面からも不可欠であり、M&A戦略設計に焦点を当てた本連携講座は、PhDプログラムの充実に資するところが大きいと言えます。

MBAプログラムは、経営学の基礎理論の教育に加えて、基礎理論を現実の企業経営問題に適用して解決策を考察する「応用研究」科目に重点を置いて実施されています。

中小企業をはじめ大企業?中堅企業のM&A仲介やM&Aプラットフォーム運営、中小企業の企業価値評価やM&A後の経営統合(PMI)、中小企業の事業成長を促進する成長型ファンドなど、M&Aに関する総合的な事業を展開する日本M&AセンターHDが、産業界で現実に生起している問題を織り込んだケース教材を用いて行う「M&A戦略設計」の講義、およびこれに関連した研究指導は、本研究科が実施する社会人MBAプログラムの特長を促進するうえで、きわめて大きな貢献があるものと期待されます。

?

(経営学研究科中小M&A研究教育センター)