神戸大学大学院農学研究科の髙須賀圭三研究員らの研究グループは、クモに寄生するハチの幼虫がクモを操作して作らせるさなぎ用の網が、クモの脱皮前に張る休息網を起源としていることを明らかにしました。さらに、糸の強度を調べたところ、休息網よりも強化されていることがわかりました。元々ある造網行動を発現させていることから、網操作の分子機構が解明されれば、クモ糸の産業化に貢献することが期待されます。

この研究成果は8月6日、「Journal of Experimental Biology」に掲載されました。


クモヒメバチに寄生されたギンメッキゴミグモ

幼虫は一定の大きさになるまでクモを生かしたまま成長する。

クモヒメバチ(ヒメバチ科)はクモの背中に卵を産み付け、孵化した幼虫はクモに外部寄生して成長します。孵化から10~14日後にはさなぎになる準備を始め、クモの行動を操作してさなぎに最適な網を張らせたうえでクモを殺し(網操作)、その後約10日間で成虫となります。

髙須賀研究員らによる研究の結果、クモヒメバチの一種によってクモが作らされるさなぎ用の網の構造が単純であることや、鳥や虫などの衝突を回避させるため紫外線を反射する機能を持つとわかった「装飾糸」の存在から、クモが脱皮前に張り同様の構造をもつ「休息網」を操作の起源としていることがわかりました。さらに、さなぎ用の網の強度を分析したところ、休息網とくらべて網の中央部で約30倍、網の外周部で約3倍の強度があることも明らかにしました。

今回の研究により、クモヒメバチがクモの神経生理に介入してクモが本来もつ造網行動を誘発することが証明され、網操作の分子機構の解明に近づいたと言えます。髙須賀研究員は「操作されているときのクモの分子メカニズムがわかれば、クモ糸の産業化に貢献することができるかもしれない」と期待を寄せています。

通常時のギンメッキゴミグモの網

らせん状に網が広がっている。

クモヒメバチの幼虫に操作されて作られた網

単純な構造で、装飾糸が存在する。クモが脱皮時につくる網と酷似している。

参考動画: ニールセンクモヒメバチ幼虫に操作されて網を強化するギンメッキゴミグモ

掲載論文

タイトル
Host manipulation by an ichneumonid spider-ectoparasitoid that takes advantage of preprogrammed web-building behaviour for its cocoon protection
DOI
10.1242/jeb.122739
著者
Keizo Takasuka, Tomoki Yasui, Toru Ishigami, Kensuke Nakata, Rikio Matsumoto, Kenichi Ikeda, Kaoru Maeto
掲載誌
Journal of Experimental Biology

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研究者