2019年4月5日、「はやぶさ2」は小型搭載型衝突装置 (SCI) を用いて小惑星リュウグウに人工クレーターを生成することに成功しました。「はやぶさ2」から分離されたカメラ (DCAM3) は、衝突後から約8分間にわたり衝突領域を撮影することに成功し、エジェクタカーテンが発達する様子やリュウグウの地表にエジェクタがたまっていく様子を捉えました。エジェクタカーテンは非対称で不均質でしたが、これは表面上の特徴と関係していることも分かりました。また、人工クレーターが生成した領域を観測した結果、人工クレーターは半円形をしており、直径は約14.5mでした。これは、地球上で形成される場合の約7倍の大きさになります。また、人工クレーターにはリム (クレーターを囲う縁の高くなった部分) があり、その中央部にはピット (くぼみ) ができていました。このように、小さな小惑星でのクレーター形成過程を初めて詳細に解明することができました。

さらに、リュウグウが小惑星帯に滞在していた期間についても新たな知見を得ることができました。これまでに行われたクレーターのサイズ頻度分布を用いた推定では、見積もり方によって年代が約600万年から約2億年とかなり幅がありました。本研究の結果を考慮すると、リュウグウの小惑星帯滞在期間は640~1140万年となります。すると、リュウグウ表面の年代は107年のオーダーであると言うことができ、これまで想定されていた範囲で最も若い年代であるということになります。

小惑星探査機「はやぶさ2」による小惑星Ryugu (リュウグウ) の探査活動に基づく本研究成果をまとめた論文は、アメリカの科学雑誌Science (サイエンス) 電子版 に2020年3月19日 (日本時間3月20日) に掲載されました。

神戸大学大学院理学研究科 惑星学専攻からは、筆頭著者として荒川政彦 (あらかわ まさひこ) 教授、共著者として小川和律 (おがわ かずのり) 技術専門職員、白井 慶 (しらい けい) 特命技術員、岡本 千里 (おかもと ちさと) 理学研究科研究員 (執筆当時)、平田直之 (ひらた なおゆき) 助教が本成果に貢献しております (著者名掲載順)。

研究の内容

小惑星の表面は大なり小なり宇宙風化の影響を受けており、そのままでは“フレッシュな”物質を調査することはできません。しかし、人工クレーターを造れば、宇宙風化を受けていない小惑星の地下物質を観測できます。また、実際の天体にクレーターをつくることで、地上の実験室で導かれたクレーターのスケーリング則をテストし、微小重力下でのクレーター形成過程の数値実験と比較する研究にも貴重なデータを提供することになります。このような目的のために、リュウグウに人工クレーターを作る実験を行いました。

小惑星近傍運用中の2019年4月5日、「はやぶさ2」は小型搭載型衝突装置 (SCI: Small Carry-on Impactor) を分離し、リュウグウ地表に人工クレーターを作る運用を行い成功しました。「はやぶさ2」に搭載されていたSCIは2kgの銅製のプロジェクタイルを2km/sで衝突させるように設計されています。また、プロジェクタイルが小惑星に衝突することによって噴出物 (エジェクタ) が放出されますが、その様子を撮影する装置が分離カメラ (DCAM3) です。

図1はDCAM3が捉えたエジェクタカーテンです。実際には、連続的に撮影が行われており、エジェクタカーテンの変化の様子がわかりました。衝突により発生したエジェクタカーテンは、最初、北方に成長しました。最初の200秒間、クレーターは成長し、その後エジェクタの堆積が起きているように見えます。また、SCIによって引き起こされた掘削とエジェクタの堆積は、衝突から500秒間以上は継続していました。一方、南側にはエジェクタの放出は観測されませんでした。南側にある