兵庫県立こども病院の飯島一誠病院長、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野の野津寛大教授及び国立成育医療研究センター臨床研究センターの佐古まゆみ部門長らの研究グループは、神戸大学医学部附属病院 臨床研究推進センターを治験調整事務局として、2018年11月1日より、小児期発症の難治性に至っていない頻回再発型あるいはステロイド依存性のネフローゼ症候群を対象とした医師主導治験を実施しました。この治験成績に基づいて、製造販売業者である全薬工業株式会社が「リツキサン?点滴静注 100 mg、同500 mg」[一般名:リツキシマブ(遺伝子組換え)]において、「小児期発症の難治性に至っていない頻回再発型あるいはステロイド依存性のネフローゼ症候群」に対する適応追加の承認を2025年3月27日付で厚生労働省より取得しました。
背景
ネフローゼ症候群は、腎臓を構成するネフロンにおける糸球体スリット膜の障害により高度蛋白尿と低アルブミン血症が生じた結果、全身性浮腫をきたす病態の総称です1)。小児期に発症するネフローゼ症候群は小児の慢性腎疾患で最も頻度の高い原因不明の指定難病で2)、そのうち約80~90%は、第一選択薬であるステロイドにより速やかに寛解する「ステロイド感受性ネフローゼ症候群」に分類されますが、うち約50%は、ステロイドによっても比較的短期間に再発を繰り返す「頻回再発型ネフローゼ症候群」、あるいはステロイドの減量又は中止に伴い再発する「ステロイド依存性ネフローゼ症候群」に分類されます3)。「頻回再発型あるいはステロイド依存性ネフローゼ症候群」に対しては、ステロイドの長期投与による副作用を軽減する目的で免疫抑制薬の導入が推奨されていますが4)、免疫抑制薬を用いても頻回再発型あるいはステロイド依存性のままステロイドからの離脱ができず難治性に至る方や、成人期に移行する方が存在すること2)、免疫抑制薬の長期投与による重大な副作用の発現が問題となっています4)。
また、リツキシマブは「難治性頻回再発型?ステロイド依存性ネフローゼ症候群」で有効であることがすでに知られていましたが、より早期の患者での有効性の臨床試験での裏付けがなく、進行した難治例のみの適応にとどまっていました。
研究の内容と結果
小児期発症の難治性に至っていない頻回再発型あるいはステロイド依存性のネフローゼ症候群患者を対象として、リツキシマブ※1を投与した際の有効性及び安全性を評価する多施設共同ランダム化※2二重盲検比較試験※3(医師主導治験※4)を全国の13の大学病院等において実施しました。被験者又は被験者の代諾者から文書により同意を取得した40名を対象として、リツキシマブ375 mg/m2/回(最大投与量500mg/回)又はプラセボを1週間間隔で2回投与し、再発するまでの期間(無再発期間)や有害事象及び副作用の発現について評価しました。
その結果、無再発期間の中央値がリツキシマブ群18例では285.0日、プラセボ群22例では80.5日となり、リツキシマブ群でプラセボ群より有意に延長し(ハザード比:0.266[95%信頼区間:0.120~0.592]、p= 0.0006[層別log-rank検定])、リツキシマブによる再発抑制効果が示されました。また、有害事象の発現割合はリツキシマブ群とプラセボ群で大きな違いは認められず、副作用の発現割合はリツキシマブ群で高い傾向にありましたが、確認された有害事象及び副作用は、これまでに国内外で本剤の既承認の適応症に使用されて報告された有害事象及び副作用と同様でした。
この研究の意義と今後の展開
小児期発症の難治性に至っていない頻回再発型あるいはステロイド依存性のネフローゼ症候群患者に対するリツキシマブ治療が有効かつ安全であることが確認できました。当該治療の開発により、既存の免疫抑制薬治療に加え、更なる治療選択肢が増えることで、既存の治療による副作用の軽減をもたらし、再発が抑制され、ステロイドや免疫抑制薬の長期投与から離脱することが可能となり、患者さんのQOLが向上することが期待でき、その意義は大きいと考えられます。
用語の説明
※1 リツキシマブ
造血幹細胞や形質細胞以外のB細胞上に発現するタンパク質であるCD20抗原に特異的に結合する抗CD20モノクローナル抗体で、標的となるB細胞をヒトの体内に備わった免疫系を用いて攻撃し、細胞を傷害する。ネフローゼ症候群の病因や疾患活動性にはB細胞の影響も示唆されており、リツキサンによりB細胞を除去することで、ネフローゼ症候群への治療効果が期待される。リツキシマブは、2014年8月に小児期発症の「難治性のネフローゼ症候群(頻回再発型あるいはステロイド依存性を示す場合)」、2024年9月に「難治性ネフローゼ症候群(ステロイド依存性を示す場合)」を効能又は効果として承認されている。
※2 ランダム化
治験に参加した患者さんを2つのグループにランダムに分けて治療法の効果を評価する方法。ランダム化を行うことで、各グループの年齢や病気の程度などが概ね均等となり、治療法を公平に評価することができる。
※3 二重盲検比較試験
割り当てられた治療法が、治験に参加した患者さんだけでなく、医師や医療スタッフにも分からないようにして投与を行い、評価する方法。受けている治療法を知っていることによる思い込みが評価に影響しないようにしている。
※4 医師主導治験
医師自らが計画し、実施する治験をいう。患者数が少ない疾患では、治療薬が必要とされているにも関わらず、製薬企業が開発に着手できないことがあり、そのような場合に、医師が自ら治験を実施し、医薬品の開発を行うものである。
出典
- 第I章総論 1. 疾患概念?病因. 日本小児腎臓病学会監修, 難治性疾患政策研究事業「小児腎領域の希少?難治性疾患群の診療?研究体制の確立」(厚生労働科学研究費補助金) 作成. 小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイドライン2020, 診断と治療社, 2020, pp2-4.
- Iijima K, Sako M, Nozu K. VII. 小児特発性ネフローゼ症候群. 日本内科学会雑誌. 2020; 109(5): 926-932.
- 第I章総論 5. 予後. 日本小児腎臓病学会監修, 難治性疾患政策研究事業「小児腎領域の希少?難治性疾患群の診療?研究体制の確立」(厚生労働科学研究費補助金) 作成. 小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイドライン2020, 診断と治療社, 2020, pp15-16.
- 4) 第II章治療. 2. 各論. 日本小児腎臓病学会監修, 難治性疾患政策研究事業「小児腎領域の希少?難治性疾患群の診療?研究体制の確立」(厚生労働科学研究費補助金)作成. 小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイドライン2020, 診断と治療社, 2020, pp39-48.