アフリカ、日本その他のシティズンシップについて、グローバルとローカルを相互に結びつける緊張の間にある可能性を描く。
シティズンシップの人類学的研究には、これまで、政治、民族、国家管理などのテーマからの蓄積がある。今日では、特定の集団や境界と結びつけて理解されることの多かったこれまでのシティズンシップについての意味づけが疑問にさらされ、問題化されるようになってきた。
本書は、21世紀のシティズンシップに関するJSPS(日本学術振興会、日本)とNRF(国立研究財団、南ア)との二国間交流プロジェクトとして南アフリカと日本の研究者によって行われた2年間の研究の成果であり、シティズンシップを二国を比較参照点としてグローバルな視野から再考しようとするものである。本書におさめられた議論の核をなすもののひとつは、柔軟なシティズンシップの概念である。これは、人々や文化の移動の歴史、場所や空間の構成と再編成、そしてその過程において形成されるアイデンティティの概念にもとづくものである。
本書は、日常の慣習と政治的メンバーシップの関係、そしてシティズンシップがさまざまな政治的コミュニティへの権利を主張したり、否定したりするときのメカニズムのひとつとしてシティズンシップをとらえようとする。「自己」は「他者」を通じて自己形成する。グローバルであれローカルであれ、世界には無数の相互に接続する関係が存在する。シティズンシップは、このような、グローバルな政治?経済によって形成されている複雑でダイナミックな権力関係のなかではじめて理解されうる。アフリカ、日本その他のシティズンシップについて、グローバルとローカルを相互に結びつける緊張の間にある開かれた可能性を描きだそうとする書である。
国際文化学研究科 教授 梅屋潔